サムライスピリッツ
−ナコルル転生編−



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信号に止められた2人。

2人の目の前を、数多くの自動車が走り抜けていく。
車に乗っている人、すれ違う人・・・。それぞれの人の流れや会話も
他人にとっては、ただの「景色」「雑音」となっているような時間の
流れ・・・。都会特有の空気。

空は、夕日であかね色に染まり、もうすでに東の空は群青色に
染まりかかっている。
背の高い建物の影が、大きく道路に寝そべっている。

先ほどよりも人々の流れが多くなった。
家路を急ぐサラリーマンの姿も多く見える。

「ほら、ナコルルさん、これが時計台っていうんだよ」



無機質なビルの谷間に、暖かい雰囲気をもった白い木造の建物。
そびえ立つ、と言うよりも、その一角だけに箱庭が置かれている
ように見える。しかし、一見場違いのようにも思えるその白い建物は、
不思議と回りの景色に順応していた。
その光景は地元の人間にとっては、当たり前の景色であり、
またそうでない観光客にとっては、若干違和感を感じるのである。

「奇麗な建物ですね・・・」

ナコルルは、光一が指を差す方を見つめた。
ナコルルにとっては、どの風景も真新しく映るのだが、何故かこの
アンバランスな雰囲気を感じていた。

「あの建物は・・?」

「あの時計台はね、この街のシンボルなんだよ!」


「いつ頃からあの場所にあるんですか?」

ナコルルは、ポケットの中に、手を入れたままマフラーに首をすくめて
寒そうにしている光一に尋ねた。

「・・・そうだなぁ、昔から・・かな?」

「昔ですか・・・」


信号が青に変わり、一斉に人が動きだした。
人の波に乗って、ナコルルと光一も信号を渡り、白い時計台の前に立った。
多くの人々は、時計台には目も向けずに歩いていく。

白い建物を見上げながら、ナコルルは静かにつぶやいた。

「この建物は・・時計台は、ずっとこの街を見守って居てくれたんですね・・・」

そう言ったナコルルは、時計台をじっと見つめている。
光一も時計台を見上げた。ナコルルをちらりと見つめ、再び
時計台に目を移し、光一は口を開いた。

「そうだね・・・」

光一の時間を置いた返事。
ナコルルは光一の方に、目を移した。

「この時計台は、僕たちをずっと見ていてくれた。でも、この時代になって
この光景をどう思っているんだろうね」

軽く笑っている光一。
そう言う光一の横顔を見つめるナコルル。光一は笑っていたように見えたが、
目は笑っているようには感じなかった。

「この時計台は、ずっと今まで時を刻んできたんだよね。
どんな事があっても、この街の流れを見つめてきてるんだ・・。
時計台がここに建てられる、ずっと以前から・・・。何となく
そう思う!」

ナコルルは、静かに光一の方を見つめた。

「昔も、今も、時の流れかたは変わりません・・。同じ時間を
共有して、助け合って、支えあって生きているんですから・・」

ナコルルは胸に手を置きながらそう言うと、光一の方をゆっくり
と振り向き、時計台に背を向けた。

「きっと、人の心も、その時代の時間の流れ方と同じように
なっているのかもしれませんね・・・人々が、忙しそうにしている
この世界、時間も忙しそうに流れています」

何処と無く寂しそうな、ナコルル。
しかし、ナコルルは小さな笑顔で、光一にこう言った。

「でも、みんな忙しそうにしていても、求める物は昔も今も一緒です!
家族や友人・・温かい心や笑顔・・そして優しさ・・・」

家路を急ぐサラリーマンの流れに、ナコルルは視線を移した。
光一も、人の流れの方を見つめた。

「疲れている人達だって、きっと家族や友達の笑顔を見たら少しでも
元気が出て来るはずですよ!」

そう自分に言い聞かせてくれたナコルル。
人はどんな時代になっても、他の人がいなければ生きては行けない・・。
そして求めるものも同じだと、感じた。

「暖かい心・・・か・・。」

光一はそう1人でつぶやくと、ナコルルの方を見つめ、ほんの少し
笑みを浮かべた。



夜を告げる、時計台の鐘の音が、北の街に響く。



「もう、こんな時間になってる」

セピア色の中に、色とりどりの光。
辺りはすっかりと、夜の景色になっていた。
人通りの多い通りを歩く。

すれ違う人々・・・。
家路を急ぐ人や、 恋仲同志の2人。 観光客。

様々な人々が・また、時間が折り重なって、この社会・世界が出来ている。
当たり前の事。


「どうかしたのですか?」

ナコルルが声をかける。

「あ、なんでもないさ・・・。」

光一はすっかりと暗くなった夜空を見上げた。

「みんなそれぞれの思いがあって、
出会いがあったり、そして別れがあったり・・不思議だよね」

「・・・そうですね。私も光一さんも、この不思議な出会いで知り合った
んですからね」



おしゃれな小物屋から流れてくるオルゴールの音色は、
雪の中でも透き通って聞こえてきて、暖かい気持ちにさせてくれる。



「人って、知らないうちに温かさや、笑顔を求めているんだよね・・。
目にみえないものこそ、大切なんだ・・。」

ナコルルの方に視線を移さず、光一は小さいな声でナコルルに言った。

目にみえないものの、本当の大切さを忘れてしまったなら、すぐに
人々の心からも消えてしまう・・・。


物質的に豊かになった現代。
かつて日本で大切にされていた、精神的な豊かさよりも、
物質的な豊かさを追い求める事になっていった。
伝統や人間関係などが「古い」「不便」というだけで、
価値の無い物だと考えて、「新しい」「先進」「便利」「快適」等と
言うだけで、価値があるものだと
考える風潮が広まる傾向にあるのも事実である。

一度失い忘れかけたものを取り戻すことは容易ではない・・
光一は感じ、ため息をついた。


ただ無言で、前を向いている光一の方を、見つめるナコルル。


「みんな、暖かい心・・家族があって、友達があって。でも、忙しくて
振り返る時間が無くて・・。本当は寂しいのかもしれません・・」

光一の心を見透かしたようなナコルルの言葉だった。

生まれてから幼い自分を大切に育ててくれた母と父。
祖母や祖父、兄弟や友達の楽しそうな笑顔・・・。 光一の心に、
みんなの笑顔がスライド写真のように回った。

「家族・・か。」

つぶやく光一。

「でも今も昔も、時代は変わっても、本当はみんなみんな変わり
ませんから・・」

寂しそうな表情を浮かべている光一の方を見つめる。ナコルルは明るい笑顔
をみせた。


―いつもの不思議な微笑み―


何処かで見たような・・・。
ナコルルの微笑みは懐かしさや、安堵感を感じ与えてくれる。
何故かはわからないが、彼女の微笑みは、光一をそんな気持ちにさせていた。



つづく