サムライスピリッツ
−ナコルル転生編−



―――

「静かな所なんですね」

部屋を見回し、口を開くナコルル。
窓の外には、雪化粧をした木々が見える。

「ここは賑やかな街から、少し離れているからね・・。
ナコルルさんは、やっぱり静かな所の方が落ち着けるのかな?」

「そうですね・・賑やかなのも良いかも知れないですけど、静かな
所の方が落ち着けて良いですね」

窓の外に目をやりながら、ナコルルは答えた。


「 ・・あ、そうだ! ナコルルさんの住んでいるカムイコタンは、
どんな感じなのか教えてくれないかな?」


光一は、外を見ているナコルルに尋ねた。
こちらを振り向くナコルル。 長い黒髪が揺れる。


「そうですね、とても静かな所ですよ。緑がいっぱいで、とても奇麗な
川が流れてて・・近くの丘を上ると、平野が広がっていて・・・」

嬉しそうな表情をして話すナコルル。 が、急にうつむき加減で寂しそうな
目をした。

「・・・ナコルルさん
大丈夫!きっと帰れるさ。絶対に・・・」

うつむいて、寂しそうな目をしているナコルルに、光一は力を込めて
言い、さらに話を続ける。

「カムイコタンかぁ〜! きっときれいな所なんだろうね・・・
行ってみたいなぁ!」

ちらりと、ナコルルの方を見やる光一。
顔をあげるナコルル。

目が合う2人。


「・・・そうですよね! きっと帰れます」

「そうだよ。大丈夫だから!」

光一はこぶしを握り、笑って見せた。


「あの、葵さん・・有り難うございます・・」



ナコルルの小さな声。


「え、何のこと? あ、そうそう!ナコルルさんの布団を用意しないとね!」

光一は笑いながら知らないふりをして見せた。

自分の気持ちを察して、優しく元気に振る舞ってくれている・・・
ナコルルは、わざと知らないふりをしている光一の背中に向かって
ほんの少し笑みを浮かべた。



暖房が効いて暖かい光一の部屋の中の2人。
日常から大きく変化した今日一日の出会い、出来事。
2人は、すぐに眠気に包まれていった・・・。



______




朝の光、冷たい空気。


「・・・ふぁぁ〜」

大きなあくびをひとつし、光一は両手を上げて身体を目いっぱい伸ばした。


平凡な一日が、今日も始まる・・・
そう考えて、いつものようにため息をつこうとする。
が、そう思ったのは一瞬だった。


― ピピピ、チュンチュン ―


聞こえるはずが無い、小鳥のさえずり。
そして、普段は暗いはずの光一の部屋に、
柔らかい朝の光が差し込んでいた。


「・・そ、そうだった! ナコルルさん!!」


眠気が一度に吹き飛ぶ。
寝ぼけ眼の光一は、慌てて布団から飛び起き、隣りの部屋を見た。


「あ、おはようございます」


もう既に身支度を整えているナコルル。
木々にとまっている、小鳥達に笑顔を見せている。


光一には、ナコルルが鳥と話をしているように見えた。
まぶしい黄金色の朝日の中にある、彼女の微笑み。



息をのみ、光一は立ち尽くした。

「どうしたんですか?」

白い息を吐きながら、ナコルルは光一に声をかけた。
光一はその美しい光景に、一瞬言葉が詰まった。


「あ、いや・・ナコルルさんが『自然と心を通わす事が出来る』って
言っていたのは本当なんだって感じて・・」


「ふふっ、そうですか? 私は、みんなが出来る事だとますよ・・」

笑顔で光一に話すナコルル。

そう話す彼女の目は、澄み切っている。
その瞳を見つめていると、不思議と、自分でも、本当に自然と心を通わせる
事が出来るような気にさせてくれた。

「自然と心を通わせる事、きっと皆さん出来ることだと思っています。
ただ・・・」

「ただ?」

聞き返す光一。

「この世界の人々は、みんな慌ててて、自分の方から、心で感じる事を
やめてしまっているうちに、忘れてしまっているのかな、って・・」

そう言うとナコルルは、手を額の上にかざし、朝日を見上げた。
冬の札幌ではあまり見ることはない、冬晴れの朝。


「今日は天気が良いから、出かけてみないかい? 」

「・・・」

ナコルルの表情を見つめる光一。
何かを一瞬、考えている表情を浮かべたナコルル。
まだ、色々な不安だらけなのだろう。

・・仕方が無いか・・

そう思った光一は、自分の頭に手を当てて、苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、おねがいします!」

思いもよらぬナコルルの言葉に、 光一は驚き思わずナコルルの方を
向いた。そこには、彼女の元気そうな表情があった。



___________



気温は低いが、空を見上げると冬の青空が広がっている。
ビルの横に掲げてある温度計が指す気温ほど、寒さは感じない。


昨日ナコルルと出会った、夜の街とは違った空気。
暗くてはっきり分からなかった景色を見つめているナコルル。
路面も、凍結していて滑りやすくなっている。ビルの谷間を行き交う人々は、
皆一様に足元を気にして歩いている。

しかし、ナコルルは、慣れた様子で凍結した路面を歩いている。

「ナコルルさん、滑りやすいから気を付けて!」

光一がナコルルに声をかける。

「心配して頂いて、有り難うございます・・・でも、大丈夫ですから」


「夜とは雰囲気が違って見えるでしょ」

辺りを見回しているナコルルに、光一は声をかけた。
ビルを見上げていたナコルルは、一呼吸おいて光一に返す。

「そうですね・・こんなに多くの人が集まっているなんて・・」

驚きの気持ちが、ナコルルの表情や声色に表われていた。
目に入る殆どのものが、ナコルルにとって初めてのものであった。

2人とすれ違う人達の中には何かしら忙しそうな人も写る。
ナコルルは、すれ違いざまに、その人達を見つめて、ほんの少し目で追った。

「皆さん、忙しそうなんですね・・・」

ナコルルは前を歩いている光一に、小さく話し掛けた。

「そうだよね、ナコルルさんにあってから、僕もそう感じるようになったよ」

後ろを振り向く光一。
ナコルルは驚いて、光一の方を見上げる。

「何気なく生活していると、この生活の流れが普通に感じていて
気が付かなかったんだ。やっぱり、どことなく慌てて生活していた
ように思ったんだ。」

光一は、流れる人波をぼんやり見つめながら、ナコルルに言った。



つづく