サムライスピリッツ
−ナコルル転生編−
___ぼんやりと窓の外を眺める2人。
「さあ、帰ろうか・・」
空になったカップを見つめている
「ぼくの家はここからバス一本でいけるところだよ」
「ばす・・ですか?」
ナコルルはきょとんとした様子で青年に
ついついナコルルが過去からやってきたことが頭から消えていた。
あわててナコルルにバスの説明をしようと試みるが,思わず考え込んでしまう。
バスなんてどうやって説明するのか解らないし、その前に自動車の事を説明
しなければいけない。
もちろん日常生活の中でごく「当たり前」の事を他人に説明なんかしたこと
もない。頭で解っていてもどうも言葉が思い当たらない。
「あの・・・」
青年が不可思議な動き(?)をしているのをみて,ナコルルは申し訳なさそうに
声をかける。
「あ、私のことはお気になさらなくても結構ですよ・・・また、そのうちにでも」
ナコルルはにっこり笑って見せた。
青年はとりあえず照れ隠しで「はは」と、とりあえず空笑いをしておいた。
バス停のあるところまで,雪道を二人はゆっくりと歩く。
新雪を踏む独特の感覚、音だけが聞こえてくるような感じだった。
雪が降り積もると、周りの音はあまり聞こえてこない。
相変わらずナコルルは大勢の人の波と街のネオンの雰囲気にのまれている
様子でいるようだ。
「ナコルルさん、あれが自動車って言うんだよ」
青年は,信号で止まっている車を指さした。ナコルルも青年の指の先
に目をやった。
「荷車みたいな感じものかな?」
言いながら、青年は頭に手をやりながら,自信なさそうな笑みを浮かべている。
ナコルルに上手く説明できない自分もちょっと情けなかったが、
自分の一挙一動をナコルルが真剣に聞いてくれているのもまた、
嬉しい気もした。
そう言ってナコルルの方に視線を移した。しかしナコルルはきょろきょろ
辺りを見回している。ナコルルはどうやら、本物の荷車を想像しているよう
だった。
「荷車に屋根を付けて機械で動かせるようにした物が、あれだよ」
「・・・葵さん、あれですか?」
そう口にしたナコルルを、ちらりとみて青年はもう一度そこに停車
している車を指さした。
「あれが自動車・・って言うものなんですか?」
青年のその指先にある白い鉄の塊に、目を丸くした。
確かに車は付いている。
更にナコルルはゆっくりと動き出した自動車を不思議そうに目で
追っていた。
「ナコルルさんにとって不思議なものなんだろうね・・」
そう言って青年は腕を組んだ。
ナコルルは、無言でコクリとうなずいた。
「この世界は・・便利な乗り物があるんですねぇ」
ナコルルは少し驚いた様な表情で青年を見上げた。
「便利か・・」
青年はついさっきナコルルが話してくれた事を思い出した。
ナコルルが全てを賭けて護り通した、平和な世界、自然を
汚してしまったり、さらに人殺しの道具となってしまうような
「文明の利器」。この事を今、ナコルルに伝えてしまったら悲しませて
しまうだろう・・せっかく気分も落ち着いてきてくれたのだし、
今は、まだ現実を言わないでおこう・・・そう思った。
でも、この事実は必ず伝えなければならない事だ。そう強く自分の心に
言い聞かせた。
拳に知らぬ間に力がかかっている。
そして、ほんの少し空を仰いだ。
寂しさが感じられる瞳だった・・・
ナコルルはそんな真剣な表情の青年の瞳をじっと見つめていた。
まるで彼女は何かを感じたように・・・・
「さ、行こうか!」
そう言って青年は、明るい声でナコルルの方を振り向いてニコリ
と微笑んだ。
この時期は札幌駅にのびる目抜き通り沿いにある並木は
ライトアップされてそこに雪が積もって幻想的な雰囲気になっていて、
歩きながら目に入ってくる、街のショーウインドウがさらににぎやかさを
引き立てている。

動物を象ったぬいぐるみなど、街のあちらこちらで目に入り、
どこからともなく冬にちなんだ音楽が流れている。
今の時期はネオンの光も、他の季節と違って不思議と暖かくかんじる。
にぎやかだがいつもよりもどことなく落ち着いた雰囲気・・・
いつもは何気なく通り過ぎているのだが、綺麗だ。
「きれいですね・・ほら、あの木なんか・・・」
しばらく辺りを見回していたナコルルが、美しくライトアップされた
並木を指さす。
「あ・え? あ、そうだね!」
「どうかしたのですか・・・?」
ナコルルは青年の顔をのぞき込んだ。
「な、なんでもないよ・・」
青年はナコルルに見つめられてなぜか緊張してしまって
一瞬堅くなってしまった。
「ただ・・この街はじっくり見ているときれいだなぁ、って思って」
「そうですね・・まるで星がこの地上に降ってきたみたい・・」
そう優しくつぶやき、ナコルルは目を細めた。
そこには普通の18歳の少女の微笑みがあった・・・。
つづく