サムライスピリッツ
−ナコルル転生編−






「えっと、僕の名前は葵 光一って言うんだ。」

青年は少し照れながらそう言った。

ナコルルの方に視線を向ける。ナコルルは外の景色を見ているようだった。
言葉では「気持ちは楽になった」と彼女は言ってはいるが、こうして横目で
ナコルルの目を見ているとやはり寂しそうな目をしていた。
時折彼女が見せる寂しそうな目・・・いきなり自分が全く知らない、
この世界に来てしまったのだから無理もないのだろうと思った。

「ナコルルさん・・心配しないで。」

ついつい青年はナコルルにつぶやいた。

「え・・あ、そうですか?そんなことないですよ。」

ナコルルはあわてるように振り返り、ニコリと微笑んだ。

青年には自分を気遣って、ナコルルが微笑んでくれているのが解った。
今さっきまで、外の景色を見つめていたナコルルの瞳から寂しさが
溢れていたから・・・

「ナコルルさん、そんなに無理をしなくてもいいよ・・・」

そんなナコルルに青年は少しだけ笑顔で、優しく言った。

「ごめんなさい・・・」

ナコルルは寂しそうにうつむいた。

「ナコルルさんって、本当に優しいんだね・・・」

そう言ってナコルルの方を見つめた。

青年は、ナコルルのこの優しさはすぐ作られるようなものではなく、
子供の時から、自然に彼女がもっているものなのだろうと思った。
そうでなければここまで自然に彼女の「優しさ」と言うものを感じる
ことはできないだろう。
 青年はもう一度ナコルルに笑顔を見せた。



「帰るところ・・無いんだよね・・・」

青年は少しためらったが、思いきって切り出した。
ナコルルはそれを聞いて寂しそうにうつむいた。
青年は、

「今日は家に泊まっていくといいよ・・どうせ僕一人で住んでるから」

「いいんですか?」

「ナコルルさんがそれで良かったら・・」

ナコルルは一瞬驚いた表情を見せた。が、自分が青年に迷惑を掛けている
と思ったのだろう、申し訳なさそうに青年の方を見つめた。

「心配しなくても大丈夫!」

胸を張り、青年はナコルルを見てニコリと微笑んで見せた。
ナコルルはホッとした表情で青年に礼を言った。
青年は、その礼を軽く受け流しナコルルに続ける。

「でも、不思議だよね・・ナコルルさんと出会うなんて」

「そうですよね・・葵さんと出会っていなければ私は・・」

ナコルルは小さな声でつぶやいた。





「君が守った世界・・・か。」

ぽつりとつぶやく。

「恥ずかしいよね、ナコルルさんが守った世界は今、こんなにごちゃごちゃ
していて・・・」

青年は街の明かりに照らされて、幻想的に光る雪を眺めながらナコルルに話し
かける。

「そうですね・・・でも、心優しい人たちもいるのですから・・・」

ナコルルは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに元の優しい表情で微笑んだ。

「こうして、この世界の人たちを見ていると、みんな何かせわしなく
感じますね。」

「そうだよね・・ナコルルさん。言われてみればそうかもしれない・・」

力のない返事。
青年はナコルルの方に視線を移さず、外を眺めながら答えた。

「でも・・楽しそうにしている人達もいますね。」

ナコルルは目の前を流れる人の波に目を向ける。そこには楽しそうに話を
しているカップル達・・・

「そうだねぇ、今も昔も変わらないのかなぁ・・?」

青年のため息混じりの返事・・・

「変わりませんよね・・ふふっ」

それを聞いたナコルルは思わず吹き出した。

「あ、ナコルルさん、初めて笑ってくれた・・」

青年はナコルルと出会って、初めて彼女の笑顔を見た。そして、
笑ってくれて嬉しかった・・・
大きな使命を背負っていた、この一人の少女がほんの一瞬でも、つらい事
を忘れてくれるのなら・・・

ナコルルの微笑みは不思議と青年の心を落ち着かせた。と言うより
彼女の微笑みは見る人全部を落ち着かせるような・・・そんな力が
あるように思った。

「おいしい・・・」

ナコルルは温かい紅茶をひと口含んだ。

「暖かいですね・・・」

そしてナコルルはカップを両手のひらで包み込むように持ちながら
青年の方を向いた。
青年はそんなナコルルを見て、ニコリと返した。

暖かい店の中から外を見る・・ネオンに照らされて七色に光る、まるで綿のような雪が、
空から静かに、そしてゆっくりと舞い続けていた・・・


つづく